解析概論の無理数論を読む(その1)

数学を勉強し直したいとずっと思っていて,代数学の本を少しずつ読み進めているのですが,解析学も少しだけ並行してやっていくことにします.解析学はだいたい実数の定義から始まると思いますが,実数を厳密に定義している解析学の本は高木貞治『定本 解析概論』(isbn:9784000052092)しか持っていません.というわけで,この本の附録I 無理数論を読んでいきます(まず実数を定義したいので1章の前に附録Iを読む).大学1〜2年の内容だと思うので,高校生でも読める内容だと思います.

本の記述を全て検証し,行間は全て埋めていくつもりですが間違いも多々あると思います.この記事に間違いを見つけたら是非教えて下さい.また,もっと良い証明がある,などのコメントもいただけるとありがたいです.よろしくお願いします.

さて,では読んでいきましょう.

無理数論の前置き部分

有理数の四則および大小の関係(順序)は既知として,有理数から無理数への橋渡しをするのである

と書いてあります.実数を定義するためには,大前提として有理数が定義されていないといけません.ですが解析概論では有理数は既に定義されているものとしていますし,この記事でも有理数は既に定義されているものとします.めちゃくちゃ大雑把に言うと,

  • 減算ができるように自然数を拡張することで整数が定義される
  • 0以外で除算ができるように整数を拡張することで有理数が定義される

という感じです.有理数から実数を定義するのは,整数や有理数を定義するのとは全く別種の拡張をしないといけないので難しいですね.

数直線上の有理数の隙間を埋めたものが実数,というのが素朴なイメージです.実際, \sqrt{2}のような無理数,つまり有理数でない数があることは古代から知られていたでしょうし,有理数に隙間があるのは確かです.ではどうやってその隙間を埋めるのかという議論になるわけですが,その前に有理数が(隙間はあれど)数直線上にぎっしり詰まっていること(稠密性)が述べられています.

有理数の稠密性が大切である.すなわち a, bが相異なる有理数で, a \lt bならば, a \lt x \lt bなる有理数 xが必ず,従って無数に,存在するのである.例えば m = \frac{a + b}{2},従ってまた \frac{a + m}{2}, \frac{m + b}{2}等々が, a, bの中間にある.

 m a, bを端点とする線分の中点ですね.そして a b mとの中点というようにどんどん中点を取ることができます.これらの点は全て a bの間にあります.

一応ちゃんと書いておくと, a \lt bの両辺に aを足すと 2a \lt a + bが得られ,その両辺を 2で割ると a \lt mが得られます.同様に a \lt bの両辺に bを足して 2で割ると m \lt bが得られます.これらを合わせて書くと a \lt m \lt bとなりますね. a, bは任意にとることができるので, bの代わりに今求めた mを入れてやれば a \lt \frac{a + m}{2} \lt mとなるし, aの代わりに mを入れてやれば m \lt \frac{m + b}{2} \lt bとなります.

それにしても,実数の概念がない(未定義)状態で有理数の稠密性と言われると違和感があります.有理数全体 \mathbb{Q}にどのような位相を入れようが, \mathbb{Q} \mathbb{Q}の中で稠密ですよね.有理数の稠密性は普通,( \mathbb{Q} \mathbb{R}も通常の位相で考えて) \mathbb{Q} \mathbb{R}の中で稠密であることを意味しているはずです.なので,実数の概念を定義する前に有理数の稠密性を論じるのは(稠密性という表現が出てくるのは)変な気がします.

これについてはよく分かりませんが,読み進めるのに支障はないので深く考えないことにします.

その2に続く.
the-maya-hiker.hatenablog.com