目標から大幅に遅れていますが,松坂和夫『代数系入門』をちまちま読み進めています. この記事では第5章§8の問題4(c)について書こうと思います. ただし,問題を明確にするために問題文を少し変えてあります.
問題
を体とし,3変数 の 上の多項式環 ] における基本対称式 を,
とする. このとき, を の多項式として表せ.
補題1
問題の は3次多項式の判別式の形をしています. そこで,3次多項式の判別式を係数で表すことを考えます. そのために,次の命題を示します.
命題
を任意の体とする. そして,変数 の 上の多項式 を とし, を の3つの根とする. このとき, とおくと, である.
証明
であるから,
である.したがって,
となる.同様にして(あるいは,上記の式の を それぞれと入れ替えて),
を得る.これより,
が成り立つ.
補題2
補題1では がまだ完全には係数 の多項式として表されていませんが,これを解くのは困難です. そこで補題2では,補題1の特別な場合として, の場合を考えます. この場合は,
と解くことができます.
問題の解
とすると であるから, は, に を付加した有理式体 上の多項式 の3つの根である.
の標数が でない場合:
の標数も3ではないから, とおくと, である.
したがって,
となる.これを とおくと,
であるから, が の3つの根となる. そこで補題2を用いると,
が得られる.
が得られる.
よって, の標数によらず, となる.
あとがき
この問題は標数が3の場合を分けて考えないといけないのが落とし穴だと思いました.
補題1は第5章§5の問題5(a)が 上の多項式だけでなく,一般の体 上の多項式についても成り立つことを示しています.
この記事に書いた第5章§8の問題4(c)は,この§5問題5(a)が頭に入っていれば解ける問題だと思いますが,解けずに悩んでいました.
その時,シルヴェスター行列の行列式として終結式を計算することによって,判別式を求めることができるということをツイッターで教えていただきました.
https://twitter.com/neruson70345238/status/1680434127601041409?s=20
教えてくださったネルソンさん,ありがとうございました.